私の暮らす世界には、ポケモンたちも生きている。
不思議な視線に気づいたら、エスパーたちがそこにいる。
寝て起きて、食べては飲んで、出会って別れて、空をながめて、
記憶のなかその日々に、エスパーたちも息づいている。
〈第七十三夜 ランクルス〉
「行くよアサナン!いわくだき!」
アサナンは呼吸を整えると、まっすぐなパンチを繰り出す。大きな岩は、たちまちバラバラに砕けた。
「すごい!すごいよアサナン!」
私が興奮してアサナンに声をかけていると、大きな音につられたか、緑色のポケモンが飛び出してきた。
ランクルスだ!
ランクルスは大きな岩を見つけて、腕をぶんぶんと回しはじめた。
大きく振りかぶって叩きつけた腕は、大きな岩を粉々にしてしまった!
「でかい音……ずいぶん張り切ったな……」
「あ、ハーブティーありがとう!見て!こっちはアサナンが壊した岩で、こっちはこのランクルスが壊したんだ!すごいパワーだったよ!」
「うん、柔らかそうな腕だけど、ものすごい破壊力を発揮するんだ。昔聞いた話だから記憶があいまいだけど……ランクルスはサイコパワーで、腕の周りの分子の運動を制御できる。それで、腕を叩きつけるときの衝撃が一番大きくなるようにしているんだ。こんなことをほとんど無意識でやってのけるんだから、すごいよね」
「そうなんだ。とってもすごいことを、考えなくてもできるようになったんだね!」
……
『よくわかんないけど、すごいね』
そんな言葉を幾度となく聞いてきた。わかってほしかった。私が説明を尽くそうとし、相手のココロへいくつもいくつも言葉の手を伸ばす。そんな私を拒むように、残酷に響く言葉。相手に悪気がなければ、なおのこと残酷だった。
「よくわかんない」。それだけのコトバ。
いま私のそばにいてくれるオリハは、その言葉を決して口にしなかった。
「格闘技の世界でも、何も考えないこと、無心ってすごい大事なんだって。考えながら体を動かすと、動きに迷いが出ちゃうんだって。歩くように、呼吸するように自然に体が動くように、毎日の練習が必要なんだよ」
「無心は確かに強いね……行動が読まれないからね」
「大事なことって、やっぱり一緒なんだ!」
オリハが嬉しそうに笑うと、私も嬉しかった。
「私の先生がね。無心と無知は違うって言ってたの、覚えてるんだ」
「というと?」
「正しい動作を身に着けると、考えなくても綺麗な動きができるけど、それには筋肉や骨格の構造とか、脳のはたらきとか、いろんな知識の裏付けがいるんだって」
「確かに。そうだよね」
私の受けた教えと同じ気もするし、違う気もした。サイキッカーの私は、自らの能力の使い方を誤らないように、また、強力なエスパーポケモンたちの力を正しく引き出すためにと、たくさんの知識を叩きこまれてきた。
私は知っていた。ランクルスの一番強力な攻撃は、腕を振り回し叩きつけることではない。脳細胞の活動を極限まで高め、相手に意識を集中させてダメージを与える……サイコキネシスだ。
〈次回 ダンバル〉