「聞いたよ。カロスに留学するんだって?」
放課後、クラスメイトに話しかけられた。教室の窓からは、人工的に管理された、わざとらしいオレンジの夕日が差し込んでいる。
「うん。修行も兼ねて、いろいろなものを体験してきたいんだ」
そう言って、私はパートナーのゲッコウガの肩をポンとたたいた。生徒たちがストイックに強さを追い求める、ブル-ベリー学園。環境としては悪くないが、やはり閉鎖的なドームに閉じこもっていては見えてこないものもある。
「やっぱり人気はパルデアの交換留学だけど、あえてのカロス?」
「そう。カロスはゲッコウガが最初に発見された土地だから、その分ゲッコウガの戦い方の研究が進んでる。いろいろ勉強して、私とゲッコウガの戦い方の幅が広がるはず。それに……」
「メガシンカ、でしょ?」
ブルーベリー学園とパルデアのアカデミーの間で交換留学が盛んなのは、学校関係者同士のつながりが深いことが第一に挙げられる。だが、それと同等に、テラスタルを使ったポケモン勝負の経験がそのままブルーベリー学園で活かせるという点がある。
テラスタルが発見されたのはパルデア地方だが、ブルーベリー学園のテラリウムドームではその再現に成功している。しかし、ブルーベリー学園で再現されていないメガシンカやZワザなどを体験するために、あえて別の地方を留学先に選ぶ生徒も決して少なくはなかった。
「まあね。イッシュでは見られない現象だから、いい経験にはなると思う。私の手持ちに、メガシンカが発見されている子はいないけど」
話がかみ合っていない。私はのんびりした表情のゲッコウガと目を合わせ、すこし首をひねった。
「……もしかして、『きずなへんげ』のこと?」
「あ、そうそう。メガシンカとは違うの?」
「うーん、学説によってはメガシンカと同一視されていることもあるけど、別の現象だと考えるのが今は主流かな。そもそも、現代では再現されていないし」
「え!?そうなの!?」
「うん。そもそも数百年前の資料に一件載ってるだけ。写真とか見たことないでしょ?有名な歴史小説家が作品に登場させたから、フィクションでもよく描かれるようになったけど、そもそも実在する現象なのかもわからないんだって」
「へー。ゲッコウガといえば変身するくらいに思ってたけど、確かにあんたのゲッコウガは変身しないか」
私はむっとした。ゲッコウガは無表情で、気にしていない様子だったが。
「引っかかる言い方やめてね。まあでも、きずなへんげが見られると思ってカロスに来た観光客が、がっかりして帰っていくの、カロスでは笑い話らしいよ」
「そっかー。あんたのゲッコウガのきずなへんげ、見たかったな」
「……見たい?」
ゲッコウガのほうをちらっと見ると、ちょうど視線がぶつかった。ゲッコウガの眼差しに、少し真剣さが宿っている気がする。
「もし『きずなへんげ』が本当だったら、私は絶対モノにして帰ってくる。もしウソだったら、私とゲッコウガは、それ以上に強くなる。そうしてあなたを驚かせて見せるから、楽しみにしてて」
私がモンスターボールを構えて見せると、ゲッコウガはゆっくりとうなずいた。
「いいね。帰ってきたら、私のカメックスと勝負だね」
友人……いや、ライバルのおかげで、改めて目標がはっきりした。一緒に頑張ろうね、ゲッコウガ。