ガラナガーデン

ポケモンの思い出を中心に

エスパー千夜一夜【ブリムオン】

私の暮らす世界には、ポケモンたちも生きている。

不思議な視線に気づいたら、エスパーたちがそこにいる。

寝て起きて、食べては飲んで、出会って別れて、空をながめて、

記憶のなかのその日々に、エスパーたちも息づいている。

 

〈第九十三夜 ブリムオン〉

 

霧の深い日は、出歩いてはならない。魔女が出るからだ。

もし霧の日に、脳を締め付けられるような頭痛を感じたら、すぐにその場を離れなくてはならない。魔女の縄張りに踏み込んだものは、魔女の爪で引き裂かれてしまうのだ。そんな言い伝えがあった。

 

頭痛を引き起こすのは霧の日の湿度や気圧の関係だろう。なにより、見通しの悪い中、道に迷えば命の危険がある。だから、このような言い伝えがあるのだと思っていた。

ブリムオンというポケモンがいると知ったのは、最近のことだった。

 

ブリムオンは、他の生物の感情が流れ込んでくることを好まず、普段は誰もいない森の奥でひっそりと暮らしている。見通しが悪く、他の生物が静かに過ごす霧の日に、ブリムオンは住処を出て活動する。そんなとき、ブリムオンの周りで騒ぎ立てるような者がいれば、流れ込む感情に耐えかねたブリムオンが襲ってくるのだという。

 

そんな恐ろしいポケモンであるブリムオンと、共に戦うトレーナーがいる。

何者も近づけさせないようなポケモンの隣で戦う人間とは、どのような者だろうか?どんなことにも動じず、心に波風を立てない、明鏡止水の境地に至った修行者のようなトレーナーでなければ、ブリムオンの隣には立っていられないのではなかろうか。

 

アラベスクタウンの若きジムリーダー……ビートは、想像されるようなトレーナーとは大きく異なっていた。

彼は素行不良と噂される事由でジムチャレンジを失格になった後、アラベスクジムの後継者として返り咲いた経歴を持つ。ダンデを打倒した新チャンピオンに並々ならぬ対抗心を持っており、チャンピオンカップでの「乱入」はファンの間では語り草。インタビューの時などは「ビート節」ともいわれる過激で挑発的な発言が名物化しており、そばで微笑んでいるブリムオンのほうが優しそうに見える始末。ただし、ブリムオンが嫌がるからと、密着取材の申し入れは一切受けないという面もある。

 

野生のブリムオンであればとても耐えられないほど、嵐のように渦巻く感情を秘めた彼だが、パートナーのブリムオンとはぴったりと息を合わせて戦う。

試合の中でも、特にブリムオンをキョダイマックスさせる場面は見ごたえが抜群。

負けたくない、絶対に勝ちたい、そんな感情をむき出しにして戦う彼の声に応えるように、天を衝くほど巨大な「荒ぶる女神」が、地に雷を降り注がせる。必殺の技、キョダイテンバツだ。

 

ビートとブリムオンはミブリムの頃から一緒におり、幾度とない勝負や、ときには挫折も共に乗り越えてきた。だからこそ、強い絆で結ばれている。それは彼自身の口からではなく、「ライバル」から語られたそうだ。ブリムオンというポケモンが、静寂よりも、彼と一緒に戦うことを選ぶこと。それが絆の成せるわざということだろう。

 

娯楽の少ないカンムリ雪原では、テレビ中継されるガラルリーグの公式試合についつい夢中になる。私がビート選手を応援しているのは、ガラルのギャロップと共に戦うからだ。

私は家族同然の相棒であるギャロップと暮らしている。家族や親しい人を背中に乗せてくれる心優しい相棒を見つつ、野生のギャロップとの違いに思いを馳せた。

 

〈次回 チャーレム

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